肺動脈絞扼術を終えて数日、心臓のまわりに水(心嚢水:しんのうすい)が溜まる「心膜切開後症候群」と診断されたヒナちゃんは、アスピリンやステロイドなどによる内科的治療を行いました。
しかし、効果は少ししかなく、このままだと退院の目途が立たなくなり、ヒナちゃん自体の心臓にも負担がかかるため、心嚢水を抜く手術をすることになりました。
心嚢ドレナージ手術とは
心嚢ドレナージ手術は心嚢穿刺(しんのうせんし)術とも言い、心臓と心臓の筋肉の間にある心膜腔に溜まった心嚢水を除去する手術です。
画像引用元:阪和記念病院より
心嚢ドレナージ手術の目的
心臓は心膜と言う膜に包まれています。
心膜と心臓の筋肉(心筋)との間を心膜腔と呼びますが、その場所に溜まる液体を心嚢液(しんのうえき)と言います。
正常な状態でも15ml~50mlの心嚢液が存在し、この心嚢液が心筋梗塞、外傷や大動脈解離からの出血、心不全、腎不全、心膜炎、悪性腫瘍からの心膜転移などの様々な病態により、心嚢液が増加すると心臓が外から圧迫される状態になるため、心臓の拡張をさまたげている状態になります。
その結果、心臓が十分に広がることができずポンプとしての能力を失い、血液を全身に送ることができなくなり心拍出量が低下し血圧が低下します。
この状態を心タンポナーデと言い、心停止に至る可能性があります。
心嚢ドレナージ(心嚢穿刺)術は溜まった心嚢液を採取・排液し、それにより心嚢液貯留に伴う心タンポナーデの解除を目的とします。
また待機的処置の場合は心嚢液を採取、精査し心嚢液貯留の原因検索を行います。
また緊急の心破裂、大動脈解離、冠動脈破裂などの出血による急性心タンポナーデの場合は、心嚢ドレナージ術は緊急手術までの救命的処置となります。
心嚢ドレナージ手術の方法
まず、穿刺部位(心嚢液が貯留している場所)を心臓超音波(心エコー)で確認し、心嚢を試験穿刺、そして試験穿刺の位置をガイドにカテラン針による本穿刺を行います。
次にガイドワイヤーを挿入し、ガイドワイヤー沿いにドレーンを挿入します。
カテーテルの位置を確認後に延長チューブにドレーンを接続し心嚢液を採取、排液します。
同時に原因検索の為に心嚢液の性状や細胞診などの検査も行われ、ドレーンを抜去し手技を終了します。
※ 大量の心嚢液をゆっくり持続的に排出させるためにチューブを留置する場合もあります
具体的には、ヒナちゃんは以下のような手順で手術を行います。
- 肺動脈絞扼術の正中創下端を再切開
- 癒着を剥離
- 心嚢膜を切開
- 心嚢水の排液
- ドレーンを1本留置
- 閉創
心嚢ドレナージ手術による合併症の心配
比較的安全と言われているこの手術にも合併症の心配があります。
出血、心臓損傷の心配
術中に出血や心臓の損傷があった場合には、胸骨正中切開に切り替えて処置を行います。
感染
創部(傷口)や縦隔(左肺と右肺の間の領域)に炎症を起こした場合には、抗菌薬などで処置します。
症状が重い場合には、外科的処置も必要となります。
再貯留
新たに心嚢水が溜まってくるようなら、アスピリンやステロイド、利尿剤などを点滴する内服治療を行います。
それでも心嚢水が減らない場合には再手術となります。
僕らは見守るのみ
ヒナちゃんは結局、心嚢ドレナージ手術を受けることになりました。
僕らにできるのは、ヒナちゃんを見守ることだけです。
「頑張っておいで」
頬と頭をなでて、手術室まで繋がるエレベーターの前まで見送ることだけです。
2回目の光景です。
それでも頑張ってくれると信じています。