僕らのヒナちゃんは生まれてすぐに房室中隔欠損症(ぼうしつちゅうかくけっそんしょう)と診断されました。
これは先天性の心臓の病気で、手術が必要な病気です。
生まれてすぐに肺動脈にリボン状のテープを巻いて肺動脈を細くする肺動脈絞扼術を、そして体重が10kgほどになったら、今度は人工心肺を使用して、心臓に新しく弁を作る修復術を行うことになります。
ヒナちゃんは、まず肺動脈絞扼術を受けることになりました。
肺動脈絞扼術、その日を迎えて
あっという間のような、長く長く感じられるような、何とも言えない時間を僕らは手術当日まで過ごしました。
ジェットコースターのような数日を、僕らもヒナちゃんも過ごしたんです。
手術のそのときまでの流れと僕らの気持ち
手術の日程は決められていましたが、実はその日程は流動的でした。
ヒナちゃんの血圧や呼吸を見ながら、ちょうどいいタイミングで手術をする必要があったからです。
幸いにも手術前まで安定した体調で、母乳もよく飲んでいましたが、血圧や呼吸がタイミングよりも早い状態だとテープを巻いても効果が薄くなってしまいます。
その場合は手術を遅らせ、逆に症状が予想より急激に進んでしまったら日程が早まる恐れもありました。
この”タイミング”は1日1日で変わるので、手術当日を迎えるまで不安は続きました。
そして、予定通りのタイミングで手術当日を迎えることができました。
手術当日の朝
手術のスケジュールは事前に先生から伝えてもらっています。
09:30 手術室へ
10:30 麻酔準備など
11:00 手術開始
13:00 手術完了
14:00 NICUへ戻る
僕らは当日9時頃までにヒナちゃんのいるNICUに来るように言われていました。
そこには準備万端で先生や看護師さんと一緒にヒナちゃんが待っていました。
3時間おきに母乳を飲んでいたヒナちゃんも朝4時からは一時的に母乳を飲むことを止められます。
お腹の空いたヒナちゃんは哺乳瓶の口だけを吸って気を紛らわせています。
僕らは少ない時間でたくさんヒナちゃんを抱っこし、なでて、写真を撮りました。
次に会うときは胸に大きな傷ができています。
だから、今、この状態を、まだキレイな状態を写真に残しておきたかったんですよね。
あっという間の30分でした。
「頑張ろうね」
「これが済んだら呼吸も楽になるからね」
「頑張ろうね・・・」
こみ上げてくる涙を僕らは必至の笑顔でこらえるのが精一杯でした。
手術室へ、僕らはただ待つしかできない
「先生、宜しくお願いします」
精一杯の気持ちを込めて、僕らは頭を下げました。
ヒナちゃんを見送ることができなかった
手術室のある階へはエレベーターで移動します。
「エレベーターまでの移動はお母さんが抱っこで連れて行きましょうか」
「そのほうがベッドに寝かせるよりも泣かずに呼吸も乱れないかもですね」
僕らはヒナちゃんを抱っこしながらエレベーターの前まで来ましたが、そこで先生たちへバトンタッチします。
最後にそっとヒナちゃんの頭をなでて送り出します。
「頑張れ!」
「ヒナちゃん頑張れ!」
「先生、宜しくお願いします」
僕らはエレベーターの正面に立つことができませんでした。
閉まるドア越しにヒナちゃんを見送る勇気がありませんでした。
そこに立ったら今にも涙がこぼれてしまいそうで・・・
長く、あっという間の6時間
僕らだけだったら不安に押しつぶされていたかもしれません。
幸いにも、昼頃に僕の両親が駆けつけてくれたので、気を紛らわせることができました。
それでも、それまでの2時間ほど、僕はママと色んな話をしました。
今後の生活について、ヒナちゃんの今後の生活について、上の子どもたちのことについて、僕らの未来について。
僕とママはそれまでも仲が良く暮らしてきました。
そして、これからも同じベクトルを向いて一緒に歩いていくことができます。
この人と一緒になれて良かったと実感できる時間でもありました。
両親を交えてお昼ご飯を食べ、いろんな話をし、僕らは少しの時間、気持ちを軽くする時間を過ごすことができました。
今思えば、ママも両親も気を遣ってくれていたんでしょう。
手術終了、そしてヒナちゃんとの面会
14時にNICUで面会ができる予定でしたが、僕らがヒナちゃんに会えたのは15時半を過ぎた頃でした。
不安で不安でたまりませんでした。
手術終了
生まれたばかりのヒナちゃんは体が小さく、麻酔を入れる点滴がなかなか入らなかったそうです。
それが原因で手術開始が遅れたとのことでした。
この14時を過ぎてからの1時間半は永遠のように感じました。
でも僕らは先生とヒナちゃんを信じることしかできません。
ヒナちゃんが手術室から出てきてすぐにNICUに運び込まれました。
僕らは顔を見ることはできませんでしたが、執刀してくれた先生から、手術は成功したと聞いて一気に体の力が抜けてしまいました。
そこから色々な検査をして、15時半に僕らはヒナちゃんに会うことができました。
ヒナちゃんの胸の傷
手術後は体がむくんでいてビックリするかもしれないと聞かされていました。
でも、僕らはNICUに生まれてから3ヶ月入っていた上の子どもたちで少しは免疫がついています。
それより気になったのが手術の胸の傷でした。
NICUに入った僕らの前に、先生と看護師さんに囲まれて寝ているヒナちゃんが現れました。
点滴、輸血のチューブ、栄養剤など様々なチューブをつけたヒナちゃんが、まだ麻酔から醒めずにスヤスヤ寝ています。
胸に大きな傷・・・
わかっていたのに「やっぱりか・・・」と思ってしまいました。
わかっているんです。
これがなければヒナちゃんは助からないってことも。
「よく頑張ったね」
「これで楽になるね」
頑張ってこれからの人生を勝ち取った代償は、女の子のヒナちゃんにとって余りにも大きいです。
「頑張ったね、頑張ったね・・・」
僕らは頭をなでることしかできませんでした。
手術後の心配
順調に手術を終えたヒナちゃんですが、術後は慎重に過ごすことになります。
特にこれからの24時間。
直接触れてリボンを巻き付けた肺動脈は敏感になっています。
少しの刺激で必要以上に肺動脈が委縮してしまう可能性があります。
そうならないために、しっかりと先生たちが見守ってくれます(僕らは何もできません)。
体調を見て、少しずつ麻酔を醒ましていき、2~3週間で退院となります。
手術による合併症のリスクもあります。
出血、感染、心不全、不整脈、胸水・腹水、チアノーゼ、房室弁逆流、心筋梗塞・脳卒中、これらの合併症のリスクを軽減させるために、先生たちは一生懸命見守ってくれます。
先生たちとヒナちゃんの生命力を信じるしかありません。
最後に
この記事を手術当日の夜に書きました(公開のタイミングとは別)。
この1日を忘れないために。
そして、同じような手術を今後受けることになるかもしれないあなたのために。
この記事が少しでも、そんなあなたと、あなたの大切な人の心を軽くするものになれば幸いです。
僕らとヒナちゃんの人生はまだまだ続きます。
ヒナちゃんはまだ動けないけど、明日も面会に行きます。
今は少しでもヒナちゃんに寄り添っていたい、ヒナちゃんに触っていたい、なでていたい。
僕らとヒナちゃんの人生はまだまだ続きます。